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大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)3号 決定

決   定

抗告人(申立人) ○○○○

同市中京区車屋町通御池上る塗師屋町三三九番地

相手方(被申立人) 亡△△△△△△遺言執行者 ××××

大津家庭裁判所昭和三七年(家)第一〇七号遺言執行者解任申立事件につき、同裁判所が昭和三七年一二月二四日なした申立却下の審判に対し、抗告人から適法な即時抗告の申立がなされたので、当裁判所は左のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は、末尾添付別紙記載のとおりであつて、これに対対する当裁判所の判断は次のとおりである。

抗告理由第一点について、

本件遣言執行者解任の申立は、本件遣言公正証書が適法に作成され、相手方が亡△△△△△△の遣言執行者に選任されたことを前提とするものであつて、右公正証書自体の有効無効に関する紛争事項は家庭裁判所の審判の対象とならないものであるから、所論は採用することができない。

抗告理由第二点について、

調停委員は、家事調停事件については家事審判官の、民事調停事件については調停主任裁判官の指定を受けて、調停委員会の構成員として当該調停事件に限り調停なる公務を行うものであつて、非常勤の一般職たる国家公務員に該当し、弁護士法第二五条第四号にいう公務員中に包含されるものと解するのが相当である。しかして、当審における抗告人並びに相手方の各審尋の結果によると、相手方が遣言者亡△△△△△△と知合つたのは、昭和二五年頃本件遣言の目的となつている物件以外の家屋に関する同人と右家屋の占拠者岡田貞雄外一名間の京都簡易裁判所の家屋明渡調停事件に調停委員として関与したためであり、なお、相手方は、その頃、本件遣言の目的となつている物件中の一筆の家屋に関する抗告人と賃借人伊藤ミチ枝間の京都簡易裁判所の家屋明渡調停事件に調停委員として関与したことが認められるけれども、弁護士である相手方が右のような関係で知合つた△△△△からその遺言執行者に指定され就任したとしても、右は、相手方が調停委員として職務上取り扱つた事件について、弁護士としてその職務を行うものというを得ないから、同条号に違反するものというを得ず。論旨は理由がない。

抗告理由第三点について、

所論の如き第八二三〇九号遺言公正証書の取消の経過並びに相手方の同公正証書変造の事実を認めるに足る証拠はないから、論旨は理由がない。

抗告理由第四点について、

原審判が認定する如く、その挙示する証拠によると、相手方が抗告人並びに同人の妻□□□□に本件遺言の執行を妨げる犯罪があると思料し、昭和三三年一二月三日大津地方検察庁に対し右両名を詐欺未遂及び偽証教唆の罪で告発したところ、□□は不起訴となり、抗告人は詐欺未遂については不起訴となり、偽証教唆につき起訴され、現に大津地方裁判所に係属中であることが認められる。しかしながら、遺言執行者は、遺言として表明された遺言者の正当な意思内容を実現することを任務とするものであつて、民法第一〇一二条第一、二項第六四四条により、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をなす権利義務を有し、誠実にその遺言を執行するため必要があるときは、遺言者の相続人に対し民事訴訟を提起することができ、また、右相続人並びにその家族にその遺言の執行を妨げる犯罪があると思料されるときは、同人等を検察官に告発することもやむを得ないところとして認容されるところであつて、相手方の右所為がその遺言執行者たる地位を濫用しその任務に違背したものと認められる特段の証拠はないから、所論は採用し難い。

抗告理由第五点について、

遺言執行者なる相手方が、抗告人以外の相続人と連絡を密にし、相続人なる抗告人並びにその家族との連絡が疏遠であるとしても、抗告人と遺言執行者なる相手方間に原審判挙示の如きいくたの紛争事件が存在する以上やむを得ないところであつて、このような事実を以て、遺言執行者解任の事由となすを得ず。論旨は理由がない。

抗告理由第六点について、

相手方が所論の調停期日に出頭したことは原審判挙示の証拠により認められる。この点の論旨も採用し難い。

抗告理由第七点について、

民法第一〇一二条第二項第六四五条により、遺言執行者は、その執務中相続人の請求があるときは何時でもその事務処理の状況を報告する義務があるけれども、遺言執行者なる相手方と抗告人との間に前記のようないくたの紛争事件が存在しているのみならず、抗告人は相手方の遣言執行者たる資格を極力否定しているのであつて、遺言執行事務の経過はこれを知悉しているのであるから、相手方が抗告人の催告を受けながら、ただちにその事務処理状況の報告をしなかつたとしても、やむを得ないところであつて、その任務を怠つたものということはできず。このような事実を以て、遺言執行者解任の事由となすを得ず、論旨は理由がない。

抗告理由第八点について、

相手方が、抗告人を精神病者扱いし、禁治産宣告を受けしめて、同人との間の前記紛争事件等の早期解決を策謀し、また、遺言執行者として遺言書記載の財産の不正処分を企図しているとの事実を認めるに足る証拠はなく、この点に関する当審における抗告人の審尋の結果と比照し措信し難い。論旨は採用することができない。

よつて抗告人の本件遺言執行者解任の申立を却下した原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用の負担につき、民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文のとおり決定する。

昭和三八年一二月二五日

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 柴 山 利 彦

裁判官 下 出 義 明

抗告の趣旨

原審判官の審判を取消し右当事者間の大津家庭裁判所昭和参拾七年(家)第一〇七号遺言執行者職務解任申立につき右抗告人が申立たる申立は失当でないから本件申立却下は許さないとの御審判を求む。

抗告の理由

一、(イ) 家庭裁判所は公正証書による遺言書の有効無効を判断する裁判所ではないことは当然であるが、遺言者の意思を抑制して相手方が原案を作り、予め清書しておいたような不正な不法な手段によつて、作られた遺遺公正証書、而も一度之を取消し、遺言者が動かすことも出来ない様な病状にあるのに真夏の暑い中を公証役場に到底出向き長時間に亘る遺言公正証書を作成することは出来なかつたのである。

かゝる事情によつて成された遺言公正証書であるから之が効力を争う訴訟、並に遺言執行者の資格を無効とする請求訴訟が提起されているのであること当然である。

従つて家庭裁判所はかゝる事情を勘案して、申立人の請求事案を審理すべきであるにも拘らず、之に対しては充分に審理を尽していないのである。

(ロ) 遺言公正証書は昭和三十三年七月一日に作成された。

これには相手方は遺言者の意思を抑制して相手方の思見通りの原案を作つた。而して之を公証人役場で予め清書さしておいた。

次に昭和三十三年七月十二日に遺言取消公正証書を作つた。

次に同日遺言公正証書を作つた。

この日は遺言者は病重篤で滋賀県山中町で静臥療養中であつたのである。従つて遺言公正証書に記載されたる原本筆跡は遺言者のものではないし又、証人西脇斉次郎の筆跡も同人のものではないと充分に判断出来る節がある。

西脇斉次郎は公正証書には一回名を書いたと云つている事実がある。(而しこれは嘘であると思われる。十二日付の公正証書には二回西脇斉次郎の氏名がある)

調査官が京都公証人役場で遺言公正証書の原本三通を調査しているならばその真偽は明白である。

審判官はかゝる事情を精査して逐次判断すべきである。(以下省略)

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